付きまとう技術、芸術、呪術(Sankei Biz「職人のこころ」より)

 「職人のこころ」というテーマで、これまで私が出会ってきた素晴らしい職人さんたちについてエッセーを寄稿させて頂ける機会を、2018年の1月から産経新聞社さんに頂いております。今回はその本編のご紹介も兼ねて、過去記事の要約をこのブログ上で掲載したいと思います。

 まずは、「付きまとう技術、芸術、呪術」と題したエッセー。私が四半世紀に渡る職人さんたちとの交流を通じて確信するに至った、“ニッポンの職人文化の最奥に息づく本質”について書いています。

 結論からいえば、日本の優れた伝統技術の伝承者たちは皆、「技術」「芸術」「呪術」という“3つの術(ワザ)”を身につけているように思うのです。

 「職人」とはその風土の中で、その土地の、家の、自らの役割として、特殊な技術を身につけた者。特に伝統技術を担う職人は長い年月にわたって、風土ごとに異なる技を培うネットワークの中で「技術力」を鍛えている。
 職人の技術力には「技術」「芸術」「呪術」が付きまとう。「技術」とはまさに職人の知恵と身体能力により培われる技。また、職人にとっての「芸術」とは自然を読み解き、時代を捉える力。適材適所に必要とされる材料、道具、人を見いだすことを可能とする。そして「呪術」とは、ものに役割や名前を与える力。・・・
これらの「術」は生き抜く力そのものであり、過去から未来へのよりよい「生活」の受け渡しである。

【職人のこころ】付きまとう技術、芸術、呪術 sankeibiz 2018.1.10

 そしてその“3つの術(ワザ)”は、職人がある境地に至ったとき突然一体となり完成する。まるで無垢なこころを持つ子供〜童子(わらべ)たちに神様が突然憑依するように。・・・実際に「童」は「ワザ」とも読む。

 伝統の中で培い、疑うことなく続けてきた職人の術としての技には、ある日突然・・・「ワザ」が降ってくることがある。これを「童」と捉える。里を立て、生かすもの。「童」にはまさに「ワザ」とルビが振られることがある。
 童子とは単なる子供ではなく「ワザをもつ者」。ワザが降りてくることを「神に魅せられた」と捉える。
 同じことを繰り返し行っていると、「できない」ということができなくなる。美しいものづくりをしていると、美しくないものが作れなくなる。「ワザ」が降ってきた者はまさに「職人」となる。そういう気がする。そして、さまざまな職人と呼ばれる人たちとの付き合いの中で気づいたことがある。それは「技術」とは「知恵」そのものであり、「知恵」とは「こころ」そのものであるということ。「こころ」の深い人ほど、よき知恵を持ち、その知恵で生活をより楽にするためのさまざまな技術を構築する。

同上

 弁財天にお仕えしている「十五童子」をご存じでしょうか? 十五童子は子供の姿で描かれることもありますが、それぞれが貴重なワザ〜専門技術を担う職人集団と捉えることができます。

 思えば皆から尊敬をあつめる職人さんほど、自己主張がなく、子供のように純粋で好奇心があり茶目っ気がある人が多いのですが、技と術と童の関係を紐解けばとても納得感があります。

 本編は以下のリンクからご覧頂けます。
SankaiBiz【職人のこころ】付きまとう技術、芸術、呪術 民俗情報工学研究家・井戸理恵子(2018.1.10)